親が健康なうちに準備しよう!実家の相続にまつわるトラブルと対策
あなたの実家は親が亡くなった後に、誰が相続するか決まっていますか。
実家の相続は家族全員で準備をしておかないと、親が亡くなった後に残された自分たちがトラブルに巻き込まれるかもしれません。
この記事ではトラブルになりやすい実家の事例とその対策を解説して、実際に相続に向けて準備した事例を紹介します。
親が健康を損ねてからではますます相談しづらくなるので、元気なうちに実家の相続について話し合っておきましょう。
実家の相続には事前の準備が重要
実家の相続について相談するなんて縁起でもない、親が亡くなってから考えればいいや、と思っていませんか。分割しづらい不動産を複数人で相続するとトラブルに発展しかねません。
実家を相続するために、事前の準備が重要である理由を確認しましょう。
不動産は分割しづらい
実家は戸建もマンションも、土地と建物からなる不動産です。現金だったら相続する人数で割れば均等に配分できますが、不動産の場合は簡単に分割できません。複数の相続人の共有名義で相続する方法もありますが、後から売買がしづらいなど揉め事の原因になるのでおすすめできません。
相続人が多いとすぐには方針が決まらない
相続する方全員が納得する形で意見をまとめるのは難しいものです。
実家を相続した場合、
- 売却する
- 相続人の誰かが住み続ける
- 賃貸として人に貸し出す
といった選択肢があります。家族にとっては小さいころから育ってきた思い出の詰まった実家であることも多く、売却や賃貸に抵抗があることも理解できます。
相続が発生した後に相続人の意見を聞いていては時間がかかってしまうので、事前に実家の相続方法の方針を話し合っておくとよいでしょう。
こういう相続はトラブルになりやすい
親が亡くなると、悲しみに包まれながら葬儀や役所への届出など様々な対応が発生して息つく暇もありません。そんな中で相続でもトラブルになってしまっては大変です。家族構成や相続人の状況によってはトラブルになりやすいケースもあります。
自分が当てはまる場合には準備が必要なことを意識しておきましょう。
子どもが実家を出て遠方に住んでいる
相続人の誰かが近くに住んでいれば相続の話し合いの要となって話し合いが進めやすくなります。ところが、子どもが地元を離れて全員遠方に住んでいると、それぞれの家庭や仕事もありスケジュールを調整して顔を合わせるのも一苦労。なかなか話し合いの場が持てないうちに相続の申告期限である10か月を迎えてしまうことになってしまいます。
兄弟姉妹の仲が悪い、疎遠である
相続人である兄弟姉妹が日常的に連絡を取り合っていれば、相続の際も話し合いがしやすいでしょう。しかし、兄弟姉妹で仲が悪い場合や、普段連絡を取らない疎遠な関係の場合は話し合いのテーブルにつくことすら困難になります。
普段から気軽にコミュニケーションをとれる関係を築いておくことが重要です。
土地や建物の権利関係が複雑
実家の土地や建物が誰の名義か考えたことはありますか?
当然のように親の名義だと思っていても、意外と複雑な権利関係になっていることもあります。実は借地の上に立っていたり、親の兄弟との共有名義になっていたり、祖父母の名義のままで相続登記されていなかったり、様々なパターンが考えられます。
ローンが残っていたり、借金の抵当権が設定されている場合もあるでしょう。
権利が複雑な場合は相続に関係する人間が増えてしまい、相続自体が複雑になってしまいます。
どういう準備ができるか
実家の相続をトラブルに発展させないためには、普段からのコミュニケーションを取りやすくしておくことに加えて、家族の意向を把握しておくことが重要です。
また、実家の権利関係を把握しておくと準備や相談もしやすくなるでしょう。
普段から家族とコミュニケーションを取ろう
日常的に親や兄弟姉妹と連絡を取り合っていれば、いざというときにも相談しやすくスピーディに対応できます。
いきなり相続の相談をするのは難しいですが、普段から少しでも連絡を取り合うように心掛けてはいかがでしょうか。日常の何気ない会話から一緒に親の老後や相続のことを考えるきっかけが生まれてくるかもしれません。
親に家をどうしたいのか聞いておく
実家の取り扱いをスムーズに決めるためにも親の意向を確認しておきましょう。親は実家をどう扱ってほしかったのだろう、と思いを巡らせても亡くなった後では聞くこともできません。親も実家のことで子供や親族がもめるのは望むところではないはず。
親が元気なうちに意見を聞いておくと、相続人同士の話し合いの中でも親の意見を尊重するなど方針を決めやすくなるでしょう。
実家に住みたいという相続人がいるか確認しておく
実家を有効活用するのに手っ取り早いのは相続人の誰かがそのまま住んでしまうことです。それぞれの家庭の状況や持ち家があるかにもよりますが、住む気があるか確認しておくとよいでしょう。
ただし、不動産を相続することになるので、他の相続資産の配分を十分に話し合って納得しておかないと禍根が残ってしまいます。相続資産全体の配分も含めてよく話し合っておきましょう。
登記簿を取り寄せて実家の権利関係を調べる
登記簿で実家の土地や建物の権利関係を把握しておけば、相続の準備ができます。登記簿は全国どの法務局でも取得できますが、オンラインでも簡単に取得申請ができます。
法務省の運営する「登記ねっと」にアクセスして必要事項を入力すれば500円の手数料で全国どこでも登記簿を郵送してもらえます。住所は住居表示の住所ではなく地番を入力する必要があります。
地番が分からない場合は法務局に電話して調べることもできますが、登記情報提供サービスというサイトで調べることもできます。
登記簿は土地と建物が別になっており、それぞれ権利部(甲区)と権利部(乙区)に分かれています。権利部(甲区)には土地や建物の所有者や取得年月日などが、権利部(乙区)には抵当権の設定や担保権などが、それぞれ記載されており、実家の権利関係を把握できます。
いつから相続について考えればいいの?
親に亡くなった後のことを相談するなんて縁起でもない!と思われそうですが、本人の健康が損なわれてからではますます話しづらくなります。なるべく早く親が元気なうちに相談することをおすすめします。
認知症になると契約ができない
親が高齢になってくると認知症を患ってしまう可能性も高まります。認知症になると家を売却したり賃貸を借りたりといった契約行為ができなくなってしまいます。
実家を売却して施設に入所する資金を作ろうと思っても難しくなり、介護にかかる費用を誰が負担するか、といった問題にも発展しかねません。
親が認知症になる前に実家を売却して賃貸に住み替えられれば、介護が必要になっても不安の種を一つ減らすことができます。
大病を患うと話を切り出しづらくなる
大きな病気にかかると自然と死を意識してしまいます。人生の終わりをまだ遠くに漠然と感じていれば、相続も客観的に話ができそうですよね。
死を身近に感じてからでは相続の相談はますます切り出しづらくなるので、親が元気なうちに、相続や老後の生活についても相談しておけるといいですね。
自分たちの転居や家を購入するタイミングなら相談しやすい
日常会話の中で相続の話を切り出すのは難しいですよね。そこで、転居や自宅の購入など自分たちの環境が大きく変化するタイミングで相談してみてはいかがでしょうか。
例えば、転勤や転職に伴って引越しをするときに、自分の転居先を引き合いに出しながら実家のことを聞いてみましょう。交通の便や日常生活に不便を感じていることが分かれば、賃貸への引越しや老後の生活を相談するきっかけになります。
また、家を購入する際には立地や間取り、生活環境など検討する点が多くあります。親に相談してみることで、実家の老朽化の悩みや部屋を持て余している状況が分かり、住み替えの相談につながるかもしれません。
自分たちの生活が変化するタイミングは、一緒に将来のことを考えていくいい機会と捉えて話のきっかけにしてみましょう。
【実例紹介】複雑な権利関係や経済状況を把握して解決策を提案
実際に複雑な権利関係の実家について相続の準備をした事例を紹介します。
権利関係が複雑な実家
実家は地方の県庁所在地にあり、私も兄も遠方に住んでいるので、実家には母が一人で住んでいます。父の両親の援助で土地を提供してもらい、その上に大工だった母の父親が家を建てました。実家を建ててから10年ほど経って、私が小学生の時に両親は離婚しました。
母の父親は家を建てた数年後に他界してしまいましたので、母にとって実家は父親の残してくれた最後の思い出であり大事な形見のような存在です。
元夫の両親の御厚意もあり土地の名義はそのままで、母はその家(実家)に住み続けていました。
このような状況のため、権利関係の複雑さに加えて思い入れも強くなりやすい実家です。
ところが、元夫の両親も10年ほど前に父親が亡くなり、母親も認知症で施設に入ってしまいました。実家の土地の名義が母親名義だと知っている元夫から、「母親もこの先長くないので、相続の後にどうするか考えておいてほしい」と私のところに連絡があり、母と一緒に対策を考えることに。
想定される選択肢とトラブルを一緒に確認
登記簿を取り寄せて名義を確認したところ、確かに
- 土地:元夫の母親名義
- 建物:母名義
となっていました。長年実家に住んでいますが、固定資産税も払ってもらっているため、借地権も発生せず土地に対する権利は一切ありません。土地の所有者から退去を求められたら出ていかなければいけない状況です。
元夫の母親が亡くなり土地の相続が発生した後も実家に住み続けるための選択肢は
- 土地の相続人(おそらく元夫)と賃借契約を結び借地料を払う
- 土地を購入する
という2つに絞り込まれました。
①だと、費用は抑えられるものの、元夫が亡くなった後に再婚相手に相続される可能性があり、さらなる相続に巻き込まれるリスクがあります。
②だと土地購入費用のために一時的に大きな出費が発生するデメリットがありますが、将来的なトラブルの芽を摘んでおくことができます。
親の意向を確認、経済状況を聞きながら一緒に考える
母にどうしたいのかを確認したところ、
- 自分の関知できないトラブルに巻き込まれるのは避けたい
- 父親の建ててくれた思い入れのある家なので、ずっと住み続けたい
というものでしたので、土地を購入することが可能か検討しました。
まずは、年金などの収入見込みと資産状況、普段の支出をヒアリングして、ライフプランシートに落とし込み、土地を購入する資金が捻出できるか確認。
母は一人暮らしで元々支出が少なく、退職金や年金に加えて投資からの収益も多少あるので、収支のバランスが取れていることが分かりました。また、今後大きなライフイベントも控えていないので、手元にある資金を土地の購入に充てても問題なさそう、という結論に至りました。
土地の売買の話は、元夫の母親が亡くなって相続が発生した後に具体的に動き出しますが、方針が決まっているため母は一安心です。
亡くなったあとに実家をどうしたいかも聞くことができた
私には独身アラフォーの兄がいて仕事も不安定なため、母も兄の生活や今後を心配しています。今回、土地を購入する方針としたのは「兄が帰る家を残しておきたい」という理由もあったようです。
土地の売買の検討を通して、母は自分の経済状況を俯瞰的に見ることができて安心したようです。私も母の老後生活や相続の際の実家の取り扱い方針も確認できて、気持ちが楽になりました。
まとめ
実家の相続は親が準備するもの、と思っていると実際の相続になった際にトラブルに発展したり、手続きがすごく煩雑になったりします。
相続は家族全体の問題と捉えて、親が認知症や病気になる前に相続する側から少しずつ話を切り出してみてはいかがでしょうか。自分が家を購入するタイミングであれば、相談をしながら親の状況や思いを聞き出しやすいでしょう。
実際の事例も参考にしていただき、親と一緒に老後や今後の生活について考えることで、将来の不安を解消していただければ幸いです。