契約が難しくなる認知症リスクとは?相続トラブルを防ぐために今できること
契約が難しくなる認知症リスクとは?
「親が認知症になったら、相続の手続きや財産管理はどうなるのだろう?」
「認知症になってしまう前に、何か準備しておくべきことはあるのだろうか?」
そんな疑問や不安を抱えていませんか?
この記事を読めば、認知症によるリスクを防ぐために今すぐできることや、家族信託や任意後見契約といった具体的な制度の概要、さらに親の認知症が疑われる際にどのように行動すべきかがわかります。親が認知症になる前にできることを一緒に確認していきましょう。
認知症リスクに備えるために今できること
親が認知症になると契約や財産管理が難しくなり、結果として相続トラブルにつながる可能性があります。しかし、事前に対策を講じることで、リスクを大幅に軽減できます。
以下では、今すぐ始められる3つの対策についてまとめてみました。
①家族で話し合いを始める
認知症リスクに備える第一歩は、家族で話し合いをすることです。
なぜなら、財産管理や相続に関する親の希望を家族全員で共有することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。たとえば、親の財産や生活費、介護費用の分担について具体的に話し合い、優先順位を決めておくことで、いざというときにスムーズに対応できます。
家族でオープンな話し合いを行うことは、親の認知症への最も基本的な備えです。
②家族信託や任意後見契約について検討する
認知症による財産管理の問題を防ぐには、家族信託や任意後見契約を検討することが重要です。
家族信託の活用
家族信託は、親が元気なうちに財産管理を信頼できる家族に託す仕組みです。
たとえば、親の預金や不動産を信託口座に移し、家族が信託契約に基づいて管理することで、親が認知症になった後もスムーズに資産を活用することができます。
任意後見契約の利用
任意後見契約では、親が信頼する人物を後見人として指定し、財産管理を事前に託すことができます。この契約により、親が判断能力を失った場合でも後見人が財産を適切に管理し、必要な契約や支払いを行えます。
③遺言書を作成してもらう
将来の遺産分割をスムーズに進めるためには、親が認知症になる前に遺言書を作成しておくことが重要です。なぜなら、遺言書があれば、誰がどの財産を相続するのかを明確にでき、相続人同士の争いを未然に防ぐことができるためです。
作成する際は、「公正証書遺言」を利用すれば、親が希望する財産分配の内容を公証役場で正式に記録し、改ざんや紛失のリスクを減らせます。また、遺産分割協議が不要になるため、相続発生後の手続きが簡便になります。
ただし、遺言書を作成する際は、専門家のアドバイスを受け、法的に有効で漏れのない内容にすることが重要です。
事前対策しないまま認知症になるとどうなる?
親が認知症を発症すると、日常生活や各種手続きにさまざまな問題が発生します。
支払いの管理ができなくなる
認知症になると、記憶力や判断力の低下により、家賃や公共料金、税金などの支払いを忘れてしまうことが多くなります。毎月の電気代や水道代の引き落としが滞り、ライフラインが停止される可能性があるため注意が必要です。
その他にも、高額な買い物や不要な契約をしてしまうリスクが増大します。
親が認知症になる前に、家族が支払い管理を引き継ぐ仕組みを作っておくことが重要です。
預金口座が凍結されるおそれがある
認知症の事実が銀行側に知られると、預金口座が凍結される可能性があります。
なぜなら、銀行は名義人の判断能力が低下した場合、資産を保護するために取引を停止します。となれば、親の介護費用を捻出するために定期預金を解約しようとしても、銀行が本人の意思確認を求めるため、解約できなくなってしまうのです。
家族が親の生活費や医療費を立て替えるとなれば、金銭的負担が大きくなるおそれがあります。
悪質な訪問販売や特殊詐欺に遭いやすくなる
認知症を発症すると、悪質な訪問販売や詐欺のターゲットになる可能性が高まります。
たとえば、高額な商品を購入させられたり、不要なサービスの契約を結ばされたりするケースがあります。さらに、認知症の方は詐欺に遭っても気づかないことが多いため、被害が深刻化しやすいのが現状です。
家族が詐欺の兆候に早く気づき、被害に遭ってしまった場合は、警察、消費者センターや専門家に相談することが大切です。
契約ができなくなる
認知症の親が判断能力を失うと、不動産の売却や介護施設の入所契約など、生活に必要な手続きなどを進めることができなくなります。契約には当事者の明確な意思確認が必要であり、判断能力が低いと契約が無効になるリスクがあるためです。
たとえば、親名義の自宅を売却して介護費用を捻出しようとしても、親が認知症を発症している場合、売却手続きを進めるのは難しいでしょう。
その結果、資産を適切に活用できず、家族の負担が増加します。契約に関わる問題を防ぐためには、認知症発症前の準備が大切です。
認知症になるとなぜ契約が難しくなるのか?
親が認知症を発症すると、契約が困難になるケースがありますが、必ずしも「認知症=契約ができない」というわけではありません。
法律上、契約を結ぶには当事者の「意思能力」が必要とされます。意思能力とは、契約内容を理解し、自らの意思で合意できる能力を指します。認知症の症状や進行度合いによって、意思能力が部分的に低下する場合があるため、契約が難しくなるとされています。
認知症になると必ず契約できないのか?
認知症を発症していても、軽度の場合には意思能力が十分に保たれていることがあります。よって、契約内容を本人がしっかりと理解していれば有効な契約を結ぶことは可能です。
しかし、認知症の進行によって意思能力が低下すると、契約内容を正しく理解できない状況が生じるため、契約は無効とされる可能性が高くなります。
契約できない状況を回避するには、前述したような家族信託や任意後見契約などの法的な制度を活用するなどし、親が意思能力を失った場合でも家族が契約を代行する仕組みを整えておくことが重要です。また、親の認知症が疑われる場合は、早期に医師に相談し、状況を客観的に把握することが大切です。
認知症かな?と思ったら4つの初期症状をチェック
認知症リスクを防ぐには、認知症が明確になる前に行動を起こすことが重要です。以下の4つ初期症状に心当たりがある場合は、認知症のおそれがあるため注意しましょう。
1. 物忘れ
認知症の初期症状として最も多いのが「物忘れ」です。
加齢による物忘れでは、昨日の夕食の内容を思い出すのに時間がかかることがありますが、ヒントを出せば思い出せるケースがほとんどです。一方、認知症による物忘れは「夕食を食べたこと自体」を忘れてしまい、自覚することもできません。
たとえば、「財布をどこに置いたか」を忘れるだけでなく、「財布を持っている」という事実自体を忘れてしまうケースがあり、日常生活に支障をきたすことがあります。
2. 性格の変化
認知症の兆候として、性格や趣味嗜好の変化が現れることもあります。
たとえば、これまで穏やかだった人が急に怒りっぽくなる、あるいは趣味だった活動を急に辞めてしまうなど、周囲が「何かがおかしい」と感じる行動が増えることがあります。
また、身だしなみに無頓着になり、外出を嫌がるようになるケースもあります。
3. 判断力の低下
認知症の初期には、物事を判断する力が低下することがあります。
たとえば、買い物の際に金額の計算ができなくなったり、交通ルールを守れなくなったりすることがあります。信号が赤でも渡ろうとしてしまったり、青に変わっても渡るタイミングがわからなくなったりなど、日常の場面で混乱することが増えるのが特徴です。
4. 注意力の低下
注意力や集中力の低下も認知症の初期に現れる症状のひとつです。
たとえば、これまで毎朝読んでいた新聞を読まなくなったり、テレビの話についていけず視聴をやめてしまったりもします。また、家事や買い物に手間取るようになり、周囲の出来事に対する関心が薄れることもあります。
注意力の低下は一見すると小さな変化ですが、日常生活に徐々に影響を及ぼすため見逃さないようにしましょう。
相続トラブルを防ぐために専門家への相談も視野に
認知症の症状に気づいた際、相続トラブルを未然に防ぐためには、専門家への相談を検討することが重要です。以下では、専門家への相談が特に有効な場面や、相談時のポイントについて詳しく解説します。
何から手をつけていいかわからない
親が認知症の兆候を示し始めたとき、まず何から始めればよいのか迷う方は少なくありません。たとえば、相続の準備として「遺言書を作成するべきか」「成年後見制度を利用すべきか」といった判断ができず、困ってしまう方が多いことでしょう。
そんなときは、専門家に相談することで、親の財産状況や家族構成に応じた最適な手続きを提案してもらうことができます。財産の分配方法や相続税の負担軽減についても具体的なアドバイスが得られるため、家族内で話し合いを進める際の指針にもなってくれるでしょう。
遺言書の作成や後見制度の利用などを検討している
相続トラブルを防ぐためには、遺言書の作成や後見制度の利用などの事前対策を検討することが不可欠です。しかし、こうした事前対策を講じるには法的知識が必須です。
専門家であれば、事前対策として有効な制度を検討している際に、必要な手続きやポイントなどについて詳しく説明してくれるため、安心して進めることができます。
専門家への相談は気軽に利用しよう
専門家への相談は敷居が高いと感じる方も多いかもしれません。しかし、最近では無料相談を実施している弁護士や司法書士、税理士が増えています。
また、相談後は必ず依頼しなければならないわけではなく、内容を聞いて一度持ち帰り、家族と話し合う時間を確保しても問題ありません。さらに、複数の専門家に相談して比較することも良い選択です。それぞれの専門家が提案する方法や費用を比較検討することで、自分たちに最適なサポートを見つけましょう。
専門家に「相談すること」自体が、相続トラブルを防ぐための大切な一歩です。
まとめ
今回の記事では、親が認知症になった場合のリスクや、相続トラブルを防ぐために今できることについて解説しました。
家族での話し合いや家族信託・任意後見契約、遺言書の作成といった事前対策を講じることで、認知症による契約の困難さや財産管理の問題を未然に防ぐことができます。特に「何から手をつけていいのかわからない」といった方は、専門家に相談することから始めてみましょう。
親の認知症リスクに備え、トラブルのない円満な相続を実現するために、ぜひ本記事を参考に行動を始めてください。
この記事を書いた人
永瀬 優
大学卒業後、地域を代表する法律事務所にてパラリーガルとして10年間勤務し、債務整理、相続、離婚、交通事故など多岐にわたる法律実務に携わりました。その知識と経験を基に、現在は法律ライターとして活動中。実務経験に裏付けられた正確で信頼性の高い執筆を心がけ、多くの読者に役立つ情報を提供しています。