被相続人向け

相続トラブル回避のための30-40代必見!親の遺産分割における注意点

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「兄弟の仲は悪くないし、相続で揉めることはないだろう」
こう考えているご家族でも、実は遺産分割でトラブルが生じることは珍しくありません。
例えば「兄弟のうち1人だけが親の生前に資金援助を受けていた」というケース。
この贈与を無視して法定相続分に従って分割すると、逆に不公平が生じてしまいトラブルの元となりかねません。
このようなケースで遺産分割のアンバランスを解消するための制度として、「特別受益の持ち戻し」があります。
こういった注意点を家族で共有しておくことが、遺産分割でのトラブルを回避する秘訣です。

「法定相続分」が公平だとは限らない!

相続財産を複数の相続人で分割する際には、民法に定められた「法定相続分」で分けるのが一般的です。
しかし、これが必ずしも公平だとは限りません。
例えば結婚や新居の購入などで、親から資金援助を受けるのは特段珍しいことではないでしょう。
これらはいわゆる「贈与」という法律行為で、いざ相続が発生した際には遺産分割で考慮しなければならない可能性が生じます。

  

「特別受益の持ち戻し」とは?

故人が生前に特定の相続人だけに財産を贈与していた場合や、遺言書によって「遺贈」があった場合などには、単純に法定相続分で相続財産を分割すると、相続人の間で受け取る財産に極端な偏りが生じる可能性があります。
このようなケースで、生前贈与や遺贈の額を考慮して遺産分割をする仕組みが「特別受益の持ち戻し」という制度です。
特別受益の持ち戻しでは、生前に受けた贈与を「相続財産の先払い」と考えます。
このため特定の相続人が受け取った贈与をいったん相続財産に計上した上で、それぞれの相続人が受け取る金額を算出するのです。

   

特別受益は「相続のバランスを崩す贈与」

法律の上では、特別受益は遺贈のほか、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」と規定されています。
親が亡くなって2人の兄弟が相続人となった場合を想定しましょう。
兄は結婚費用や新居の購入で親から多額の援助を受けたのに対し、弟は独身でこれらの援助は全く受けていません。
将来的に次男が結婚する際にも同様の資金援助が見込まれたはずであったのに、親が他界してしまいました。
相続人が子ども2人の場合、法定相続分に従えば「それぞれ2分の1ずつ」で遺産を分割するのが通常です。
ですが次男にしてみれば、この割合で資産を分けることはむしろ不公平と感じるのではないでしょうか?
このようなケースで、「特別受益の持ち戻し」という仕組みによって法定相続分とは異なる遺産分割が適用される可能性があるのです。

  

相続の基本!相続順位についても知っておこう

上記の例では「親の財産を兄弟2人で相続する」という仮定でお話ししましたが、そもそも相続では被相続人(亡くなった方)と相続人の家族関係で優先順位が決まっています。
この順位によって遺産分割の割合も異なってくるので、基本の相続順位を押さえておきましょう。

   

相続の優先順位は子ども、直系尊属、兄弟姉妹

民法では、優先的に相続人となる「相続順位」が決められています。
第1順位は子ども、第2順位は父母や祖父母などの直系尊属、第3順位は兄弟姉妹です。
子どもは先に亡くなっている場合は孫が相続人となる仕組みで、これを代襲相続と呼びます。
順位が上の人から相続人となり、それ以降の順位の人には相続権が発生しません。子どもがいれば、親兄弟は相続人にはならないのです。
ここで、夫や妻が出てきていないことに気が付いたでしょうか?
配偶者には順位がなく、常に相続人になると定められています。
子どもがいれば配偶者と子どもが相続人に、子どもがおらず第2順位の親が相続人となる場合は配偶者と親が相続人になるという形です。

   

順位ごとに決められた割合が法定相続分

相続財産の割合も民法で定められています。これが法定相続分です。
配偶者と子どもが相続人の場合は配偶者が2分の1、子どもが2分の1で、この「2分の1」を子ども全員で均等に分割します。
配偶者と直系尊属の場合は配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1。配偶者と兄弟姉妹では配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
同順位の相続人は、子どものケースと同様に全員で均等に分ける形です。ただし、親が相続人となる場合には祖父母は相続人になりません。
法定相続分はあくまでも「遺産分割の合意が得られなかった場合」のために示されたものですから、必ずしもこれに従わなければならないわけではないのです。

  

特別受益の持ち戻しが適用されるケースと適用されないケース

生前贈与や遺贈があったからといって、必ずしも特別受益の持ち戻しが適用されるとは限りません。
特別受益の持ち戻しは「相続人の間での遺産分割のバランスを調整する」という、いわば補助的な仕組みですから、すべての贈与が対象となるわけではないのです。

   

「特別受益の持ち戻し」は相続人だけに適用される

特別受益の持ち戻しが発生するのは、あくまでも「相続人同士の遺産分割のバランスが崩れる場合」です。
つまり、生前贈与や遺贈が特別受益とみなされるのは、「相続人に対する贈与」に限られます。
相続人でない人に対して多額の贈与をしていたとしても、それは持ち戻しの対象には含まれません。
ただし、その贈与によって相続人が「遺留分(最低限受け取れると規定された遺産の割合)」を受け取れなくなる場合には、贈与を受けた人に対して遺留分侵害額を請求することができます。

  

故人が意思表示をすれば特別受益の持ち戻しは免除される

特別受益があるからといって、必ずしも持ち戻しをしなければならないとは限りません。
相続においては、故人の遺志が尊重されることが大切です。
このため被相続人が「持ち戻しを免除する」という意思表示をしていれば、贈与の額を相続財産に含めずに遺産分割をすることになります。

   

黙示の意思表示と認められるケースもある


2019年に施行された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」で、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合には、原則として「被相続人が特別受益の持ち戻し免除の意思表示をした」と推定する規定が設けられました。
このほかにも、贈与を受けるとともに何らかの負担が生じた場合など、明確な意思表示がなくとも「黙示の意思表示」として認められた事例も存在します。

  

特別受益の持ち戻しをもっと詳しく!

特別受益の持ち戻しは少し専門的な話ではありますが、理解していないと遺産分割でトラブルの種になりやすいポイントです。
理解しておきたい注意点を押さえておきましょう。

   

特別受益の価値判断は相続開始時

特別受益に該当する贈与の対象は、何もお金だけとは限りません。
例えば「自宅を贈与した」というケースでは、その評価額は相続開始時の価値で判断します。
自宅を贈与された時点の評価額とは異なる可能性があることを覚えておきましょう。
10年前に2,000万円相当の不動産を贈与されたと仮定します。
ですが、10年間で価値が半減し相続時の価値が1,000万円だったとしたら、特別受益として加味する金額は1,000万円です。

   

持ち戻し免除と遺留分の関係


特別受益の持ち戻しが免除された場合でも、他の相続人の遺留分を侵害するケースには注意が必要です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた「最低限受け取ることができる財産の割合」のこと。原則として法定相続分の2分の1とされ、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の3分の1となります。
被相続人によって持ち戻し免除の意思表示がされた場合でも、原則として遺留分を侵害することはできません。

   

特別受益の持ち戻しに時効はない


持ち戻しの対象となる特別受益には、原則として時効がありません。
相続開始の何年前に贈与されたものであっても、相続財産に加えて計算することができるのです。
しかし、遺留分を侵害しているかどうかを判断する場合には、計算に入れる特別受益は相続開始前10年以内に限定されています。

  

特別受益を正しく理解し、トラブル要因を1つ回避しよう

遺産分割の割合は「法定相続分」という形で決まっているとはいえ、必ずしもそれが適切とは限りません。
「特別受益の持ち戻し」が発生するケースは、遺産分割の中でトラブルが発生しやすい事例の一つともいえます。
「相続財産を分ける際には、生前に贈られた財産を考慮する」という仕組みを理解しておけば、相続トラブルの要因を1つ回避することができるでしょう。

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