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親の認知症で預金口座凍結?回避のための事前対策と解除方法

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親が認知症になると、預金口座が凍結されてしまう可能性があることをご存知ですか?

預金口座が凍結されてしまえば、「生活費や介護費用の支払い」「遺産分割手続きへの影響」など、心配事は増える一方です。しかし、本記事を読めば、親が認知症になった場合でも預金口座が凍結される事態を回避し、万が一凍結された場合にもスムーズに解除する方法がわかります。

今回は、預金口座凍結を回避するための事前対策、すでに凍結された場合の解除手順などについて詳しく解説していきます。

預金口座凍結を回避するための事前対策

親が認知症になった際の預金口座凍結を防ぐためには、事前に適切な対策を講じることが重要です。ここでは、事前対策として特に有効な「家族信託」「任意後見契約」「生前贈与」の3つの方法について詳しく解説します。

家族信託の活用

家族信託は、親が元気なうちに家族に財産管理を託し、認知症発症後もスムーズに資産を活用できる仕組みです。信託契約を結んでおけば、親が判断能力を失っても、受託者である子どもが契約に基づいて資産管理や生活費の支払いを続けることができます。

たとえば、親の預金を信託口座に移しておくことで、口座凍結を防ぎつつ、生活費や医療費を確保することが可能です。

また、家族信託は資産運用も自由に行えるため、後述する「後見制度」より柔軟な選択肢となります。家族信託をうまく活用することができれば、親の生活費や介護費用を安定して管理できるでしょう。

②任意後見制度の利用

任意後見制度は、親が元気なうちに信頼できる後見人を選び、財産管理を託す契約を結ぶ方法です。任意後見契約を結んでおけば、親が認知症になった際にも、後見人が財産管理を引き継ぎ、親の口座を凍結させることなく利用することが可能です。

制度を利用するためには、公証役場で親との任意後見契約書を作成し、家庭裁判所への申立をしなければなりません。家庭裁判所に認められると、子どもが後見人として選任され、親の生活費や医療費の管理が可能になります。

ただし、任意後見契約は、親が判断能力を失う前に結んでおく必要があります。よって、早期の段階で家族間にて話し合い、任意後見人を選ぶことが重要です。

生前贈与の活用

生前贈与は、親が元気なうちに財産を子どもに譲渡する方法です。生前に財産を移転しておくことで、親が認知症を発症した場合でも口座凍結の影響を最小限に抑えることができます。

生前贈与は、親が元気なうちに財産を子どもに譲渡する方法です。生前に財産を移転しておくことで、親が認知症を発症した場合でも口座凍結の影響を最小限に抑えることができます。

たとえば、年間110万円以内の生前贈与であれば非課税のため、将来の遺産分割手続きを見据えながら、少額ずつ計画的に資産を移転することで、相続トラブルを回避できるでしょう。

ただし、全財産を贈与してしまうと、親自身の生活費が不足するリスクがあるため、慎重に計画を立てる必要があります。

親の認知症で預金口座が凍結される理由と問題点

では、なぜ親が認知症になると、銀行の判断で預金口座が凍結される可能性があるのでしょうか?以下では、口座凍結される理由と影響についてご説明します。

預金口座凍結が起こるタイミングとは?

銀行側は、口座の名義人が判断能力を失った場合、本人が口座を適切に管理できないとみなし、本人の承諾なく預金口座を凍結し、すべての取引を停止します。

たとえば、認知症の診断書が提出されたタイミング、銀行が名義人の認知機能に問題があると判断したタイミングなどで預金の引き出しや振り込みができなくなることがあります。

預金口座凍結による具体的な問題点

親の預金口座が凍結されると、子どもたちにとって次のような問題が生じます。

親の生活費や介護費用が捻出できない

預金口座が凍結されると、認知症の親の介護費用や医療費、日常生活費を引き出せなくなります。昨今は、親の介護期間が長期化するケースも多く、子ども自身の生活費に加えて親の介護費用がかかるとなれば、家計の圧迫は避けられません。

親の口座から年金や貯金を自由に引き出せない状況は、子どもたちにとって大きな負担です。

年金受取口座の変更ができない

年金が親の凍結された口座に振り込まれる場合、振込自体は制限されませんが、引き出すことができないため、口座に年金が積み上がっていく一方になります。

また、年金受取口座の変更手続きは原則として家族が代行できません。親の生活費を年金に頼っている場合、さらに大きな負担となって子どもたちにのしかかります。

すでに預金口座が凍結された場合の解除方法

認知症による預金口座の凍結を解除するには、成年後見制度を利用する必要があります。

成年後見制度とは、家庭裁判所が選任した成年後見人が本人に代わって財産を管理する制度です。以下では、成年後見制度の詳細と注意点について解説します。

預金口座の凍結を解除する方法は成年後見制度のみ

預金口座が凍結された場合、解除する唯一の方法が「成年後見制度」の利用です。

なぜなら、認知症などで判断能力を失った場合、銀行は財産の保護を目的として本人の口座を凍結しますが、成年後見制度の成年後見人が選任されれば、本人に代わって財産を管理する権限が与えられます。

成年後見人は家庭裁判所の許可を得た上で、凍結された口座から生活費や医療費などを随時引き出せるため、預金口座が凍結された場合は、成年後見制度の利用が必要不可欠です。

成年後見制度を利用する流れ

成年後見制度を利用するには、次のような手順を踏む必要があります。

①家庭裁判所への申立て

申立人(本人または四親等以内の親族)が、診断書や財産状況を示す書類など必要書類を揃え、家庭裁判所に申し立てを行います。

②家庭裁判所の調査と面談

家庭裁判所の調査官が本人や関係者と面談を行い、本人の判断能力や財産状況を確認します。

期間は個々の事情や裁判所の状況によっても異なりますが、1~4ヶ月程度かかる場合が多くなっています。

③成年後見人の選任

家庭裁判所が、本人の財産状況や生活環境を考慮し、成年後見人を選任します。親族が後見人に選ばれることもありますが、多くの場合、弁護士や司法書士が選任されます。

また、親族が後見人に選ばれる場合は、弁護士や司法書士が「後見監督人」に選任されるケースがほとんどです。

④成年後見人の活動開始

成年後見人が選任された後、凍結された預金口座を管理・利用できるようになります。

成年後見制度の注意点

成年後見制度は便利な反面、以下のような注意点があります。

報酬の負担が発生する

成年後見人や成年後見監督人が弁護士や司法書士である場合、月額2~5万円程度の報酬を支払う必要があります。認知症の進行が長期化すれば、報酬の総額が家族にとって大きな負担となる可能性があるため、利用の際は注意が必要です。

財産の自由な運用が制限される

成年後見人が管理する財産は裁判所の監督下に置かれ、自由に使うことはできません。不動産の売却や高額な支出を行う際には、その都度、裁判所の許可が必要です。

手続きに時間がかかる

成年後見人が選任されるまでに1~4ヶ月程度かかることがあります。この間、口座の凍結が解除されないため、緊急の支払いに対応できないため注意が必要です。

専門家に相談するメリットと注意点

親の認知症による財産管理や相続手続きは複雑で専門知識が求められる場面が多いため、専門家への相談を検討してみるのも良い選択肢です。以下では、主な相談先となる弁護士、司法書士、税理士、に相談するメリットと注意点について解説します。

弁護士に相談するメリットと注意点

弁護士は法律の専門家として、相続全般の問題解決や成年後見制度の手続きに対して包括的なサポートを提供します。

メリット

・トラブル解決のプロ

相続争いや財産分割の問題が発生している場合、的確なアドバイスが得られます。

・成年後見制度のサポート

複雑な成年後見の手続きも弁護士が代行可能です。

・遺言書の作成支援

法的リスクを防ぎながら、親の意思を明確に残せます。

注意点

・費用が高い

初回相談料が無料~1万円程度ですが、着手金や報酬金が高額になる場合があります。

・長期化の可能性

相続トラブルが裁判に発展すると、解決までに時間がかかることがあります。

司法書士に相談するメリットと注意点

司法書士は不動産登記や相続手続きの専門家で、成年後見や家族信託の手続きも支援します。

メリット

・不動産関連の手続きに強い

不動産の名義変更や登記が必要な場合に適しています。


・遺産分割協議書の作成支援

円滑な相続手続きを進めるための書類作成が可能です。


・家族信託や成年後見の設計支援

手続きの具体的なサポートが得られます。

注意点

・対応範囲が限定的

争いが生じている相続や一部の裁判手続きには対応できないため、弁護士との連携が必要な場合もあります。

・費用が発生する

初回相談は無料~5,000円程度ですが、手続きに応じた費用が別途発生します。

税理士に相談するメリットと注意点

税理士は相続税対策や生前贈与の計画において具体的な提案・サポートをしてくれます。

メリット

・相続税の試算と対策

親の財産に応じた最適な節税プランを提案してもらえます。

・生前贈与の計画立案

税負担を最小限に抑えながら資産移転を行えます。

・不動産売却時のアドバイス

相続不動産の売却や運用についての専門的な支援が可能です。

注意点

・複雑なケースでは追加費用が発生

資産構成が複雑な場合、費用が高額になることがあります。

まとめ

親が認知症になると、預金口座の凍結による生活費や介護費用の支払い問題、さらには成年後見制度の利用など多くの課題が家族に降りかかります。よって、親が元気なうちから終活の一環として、「家族信託」「任意後見制度」「生前贈与」といった事前対策を講じることが重要です。

また、財産管理や相続に関する問題解決には、弁護士や司法書士、税理士といった専門家への相談も良い選択肢の1つです。それぞれの専門家の対応範囲を把握することで、最適な解決策を見つけることができるでしょう。

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この記事を書いた人

永瀬 優
大学卒業後、地域を代表する法律事務所にてパラリーガルとして10年間勤務し、債務整理、相続、離婚、交通事故など多岐にわたる法律実務に携わりました。その知識と経験を基に、現在は法律ライターとして活動中。実務経験に裏付けられた正確で信頼性の高い執筆を心がけ、多くの読者に役立つ情報を提供しています。

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