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遺言書は元気なうちに!正しい書き方と生前贈与でリスク回避

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親が認知症になると、遺言書を作成できなくなり、相続手続きが複雑化してしまうリスクがあることをご存知ですか?また、相続税対策として有効とされている生前贈与も、やり方を間違えると無駄な税金を支払うことになり、思わぬ損失を招く可能性があります。

そこで今回の記事では、親が認知症になる前に遺言書を正しく作成する方法と、生前贈与で損をしないためのポイントについて解説します。親が安心して暮らせる環境を整えたい方、将来の相続手続きを心配に感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。

正しい遺言書の書き方とは?

遺言書は、相続トラブルを未然に防ぎ、親の生前の意思を反映させるために重要な書類です。

以下では、遺言書を正しく作成するために知っておきたいメリットや種類、作成時の注意点について詳しく解説します。

遺言書3つの作成方式

遺言書には大きく、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式があります。

それぞれの特徴を理解し、法的に有効な遺言書を作成するための知識を身につけましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、その名前のとおり遺言者が自ら手書きする方式です。

作成は手軽で、用紙や筆記用具に特別な指定はないため、誰でもすぐに始められるのが特徴です。しかし、法的に有効な遺言書とするためには、「全文を遺言者が自筆で記載すること」、「年月日を正確に記載すること」、「署名と捺印を行うこと」など、細かな指定があります。

また、訂正があった場合のルールも定められているなど、自筆証書遺言は手軽さの裏にリスクを多く含む作成方式であるため、あまりおすすめできる方式ではありません。

なお、法的に有効な遺言書を作成できたのであれば、令和2年から始まった「法務局の遺言書保管制度」の利用がおすすめです。この制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを軽減する他、検認(裁判所で遺言の内容を確認する手続き)が不要になります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する方式です。

公証人が法的要件を確認しながら作成するため、無効となるリスクがほとんどありません。また、公証役場で原本を保管してくれるため、紛失や改ざんのリスクがほとんどなく、「遺言書がどこに保管してあるかわからない」といったトラブルを防止します。

なお、作成時には、2名の証人が立ち会う必要があります。証人には、将来相続人になる方や遺言で財産を受け取る予定の方など、利害関係者は含められませんので注意しましょう。

また、公正証書遺言の作成には費用が発生します。財産の総額に応じて手数料が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。とはいえ、公正証書遺言は確実性を重視する方に最適であり、3つの作成方式の中で一番のおすすめになります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしたまま、公証人が存在を証明する方式です。

遺言内容を他人に知られずに作成できるため、親が相続人に内容を知られたくないと主張している場合に有効な作成方式です。ただし、公証人が確認するのは内容ではなく、遺言書の存在のみであるため、形式不備などを理由に無効になるリスクが高いです。また、公正証書遺言と異なり、裁判所での検認手続きを行わなければなりません。

いずれも相続人にとって負担になる恐れがあるため、実務上はあまり利用されていません。

遺言書を作成するメリット

遺言書には、相続をスムーズに進めるための多くのメリットがあります。

例えば、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の行方を話し合う必要があります。しかし、意見の食い違いから争いが発生するケースが後を絶ちません。遺言書を作成すれば親の意思に基づいて遺産分割できるため、トラブルを回避しやすくなります。

また、遺言書を使えば、法定相続人以外の人、例えば介護で貢献した長男の妻や、親しい友人への財産分配も可能となります。この世に生きた方の最後の意思表示とも言われるのが遺言書なので、親の希望を聞きながら作成を進めていくのが理想的と言えるでしょう。

損をしない生前贈与とは?

生前贈与は、親が元気なうちに財産を贈与することで、相続税を軽減し、家族間のトラブルを防ぐ有効な手段です。しかし、生前贈与は間違えてしまうと、余計な贈与税や相続税を支払う自体になりかねません。

以下では、生前贈与の基礎知識と利用のメリット、具体例について紹介します。

生前贈与の基礎知識

まず、知っておきたい基礎知識として、生前贈与には以下の2つの方式があります。

暦年贈与

暦年贈与は、毎年1月1日から12月31日の間に、1人あたり110万円以下の贈与であれば非課税となる仕組みです。この方式は制度自体がシンプルであるため、多くの人に利用されています。

非課税枠内で贈与を繰り返すことで、長期的な目線から少しずつ相続財産を減らし、相続税を軽減する効果が期待できます。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対して贈与を行う際に選択できる制度です。この制度では、2,500万円までの贈与が非課税となりますが、贈与財産は相続時に相続財産として加算され、相続税の計算に含まれます。

一度選択すると暦年贈与に戻すことはできないため、慎重な検討が必要です。

損をしない生前贈与の具体例

次に、損をしない生前贈与を実現するための具体例についてご紹介します。

暦年贈与の活用

子ども3人に対して、毎年それぞれ110万円の暦年贈与を行った場合、合計330万円を非課税で贈与できます。この方法を10年間続ければ、3,300万円分の財産を相続財産から除外できる計算になります。

このように少額ずつ分割して贈与することで、相続税の基礎控除である、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の金額内に収めることも可能となるでしょう。

結婚20年以上の夫婦間の住宅贈与暦年贈与の活用

結婚20年以上の夫婦間では、自宅の贈与について2,000万円まで非課税になる特例があります。この非課税枠を利用すれば、大きな財産を贈与しても税金負担を軽減させられます。

例えば、父から母への自宅の贈与があった場合、本来であれば母が住宅を取得した際に発生する贈与税が非課税になるため、余計な税金を支払う必要がなくなります。

教育資金や結婚資金の一括贈与

年齢制限はあるものの、子どもや孫の教育資金、結婚・子育て資金を一括で贈与する場合、最大で1,500万円まで非課税とする特例があります。

例えば、孫の留学費用として1,500万円を一括で贈与した場合、通常の相続財産から除外され、贈与時の税負担が回避できるため、余計な税金を支払う必要がなくなります。

親が認知症になった後に起こり得ること

親が認知症を発症すると、判断能力が低下し、財産管理や相続手続きに支障を来すおそれがあります。事前に遺言書や生前贈与の対策を講じていない場合、以下のような自体が起こり得ます。

遺言書を作成していない場合

遺言書がない場合、基本的に遺産分割は法定相続分に基づいて行われます。

しかし、法定相続分に満足しない相続人がいる場合、遺産分割協議を行う必要があり、家族間で意見が対立するリスクがあります。特に、不動産や事業資産など分割が難しい財産がある場合、相続人同士の話し合いが難航するケースも多いです。

生前贈与をしていない場合

生前贈与を行っていないと、親の所有する財産がそのままの状態で残ります。

そんな状態で認知症を発症した場合、親名義の不動産や預貯金を自由に管理・処分することが難しくなってしまいます。不動産の売却や修繕費の捻出などがスムーズに行えなければ、家庭内での負担が増大するおそれがあるでしょう。

また、生前贈与がなければ、相続時の財産がすべて課税対象になります。特に、多額の現金や評価額の高い不動産が相続財産に含まれる場合、相続税の負担が増加するおそれがあります。

まとめ

親が認知症になる前に遺言書を作成し、生前贈与を活用することは、相続トラブルを防ぎ、家族全員が安心して暮らせる環境を整えるための大切な手段です。

しかし、こうした対策を行わないまま親が認知症を発症すると、財産管理や相続手続きが複雑化し、家族間のトラブルに発展するリスクがあります。

「どこから始めればいいかわからない」「専門的な知識が必要で不安」と感じた方は、司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

この記事を書いた人

永瀬 優
大学卒業後、地域を代表する法律事務所にてパラリーガルとして10年間勤務し、債務整理、相続、離婚、交通事故など多岐にわたる法律実務に携わりました。その知識と経験を基に、現在は法律ライターとして活動中。実務経験に裏付けられた正確で信頼性の高い執筆を心がけ、多くの読者に役立つ情報を提供しています。

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